母子保健の保健師として8年目に突入しました。今回はずっと書きたと思っていたワクチンのことで、ワクチンを打っていない保護者や子どもに対して気を付けておいて欲しいことについてです。保護者に対して「なぜワクチンを打たないのか」といった否定的な話ではないです。ワクチンを打たない選択をした保護者と子どもに、気を付けておいてほしい話をつらつら書いているだけです。
乳幼児健診でワクチンを打っていない子どもはどれくらいいるのか
乳幼児健診に従事していますが、ワクチンを打っていない子どもの割合ってどれくらいいると思いますか?80人前後の1回の健診で、0~2人ほどの割合です。「最初から打ちません」「途中まで打ったのですが、危険と思ってやめました」という感じです。打たない理由としては、「本を読んで勉強した」「そういう宗教だから打たない」という感じです。ワクチン接種を希望していない方は、フッ素も希望しない人が多いように思います。また、ステロイドの塗布もあまり希望しない方が多い印象です。
ワクチンを打たない保護者への働きかけ
乳幼児健診では、ワクチンの無料の時期を保護者が逃さないように、母子(親子)手帳にて接種歴を確認します。1歳半を超えてくると、0歳の時に比べてワクチン接種をするタイミングの期間が空いてしまうこともあり、ついつい忘れがちになってしまいます。なので問診などで対応したすべての子どもの接種歴は必ず確認しています。
その時に母子(親子)手帳の接種歴が空欄であったり、途中から空欄になっている方には事情を聞きます。

予防接種は打たない感じですか?
予防接種が中断している人の中で、稀に「忙しくて行けていません」と答える方がいらっしゃいます。その方に対しては無料の期間が過ぎてしまい、高い費用がかかるので、通院が大変なのは重々承知なのですが、行ってくださいとお願いします。
母子(親子)手帳の予防接種欄が真っ白な方や中断している方の多くは「主治医と確認して打たないって決めているんです」「途中までは打っていたのですが、やめました」「知人が予防接種の副反応でひどいことになったので、やめました」「このまま打ち続けるか悩んでいます」と答えます。
悩んでいる保護者の方には、少しだけ踏み込んだお話をします。悩んでいない保護者に関しては、もし気が変わって予防接種をするのであれば、無料で受けれる期間が決まっているので、その部分を注意すること等をお話ししています。私はどちらかというと、あっさりした感じでお話をしています。「ワクチンが100%安全とは言い切れません。もちろん副反応は出ることはあります。ただ、メリットとデメリットを天秤にかけると、やはりメリットの方が上回るので、ワクチン接種を推奨しています。」とは思っていますが、それをいろいろ悩んだ末ワクチンを打たないと決めた保護者に懇々と言ったところで、心に響くどころか、よくSNSなどである「健診に行ったら予防接種していないことについてネチネチ言われた」と嫌な思いをして帰宅し、「保健師は敵」と保護者の方が感じると、何かあった時に保健師が頼れる存在ではなくなってしまうからです(※保健師によってその考え方は様々なので、その点はご了承ください)。
ワクチンを打たないと決めた保護者が、そこに至るまでに子どもの事を大事に思ってよく考えた上でその選択肢をしたということは重々承知しています。なので健診でたまたま通りがかった私の言葉が保護者の心に響くなんて、到底思っていません。ただ、ワクチン接種に関して、ワクチンに関する疾病の流行状況や、適切なワクチン接種の時期を逃すと有料になるということは、伝えておく必要があるかと思うので、保護者にお伝えはしています。
ワクチンを全額自費で受けるといくらになるのか
ワクチンってすべて自費で接種するといくらくらいになるか知っていますか?例えばこちらのクリニックの自費の値段を参考にしてみるとします。
生後2か月~学童期(HPV)までを含めると、合計で30万円以上になります。
これほどの大金を子ども一人一人に公費で全額補助をしてくれています。なかなか子育て世代に補助が当てられないこの時代に、これだけの金額を子ども全員に補助してくれるのは、本当にありがたいことだと思います。これだけの金額をわざわざ公費で補助するということは、それだけワクチン接種が大事であるという事がわかります。
注意してほしいのが、無料の時期にワクチンを打たずに、子どもが大きくなって、留学や医療関係に従事するとなると、すべてのワクチンではないですが、ある程度のワクチンを自費で打たなければなりません。数千円では済まずに万単位でお金がかかります。しかもワクチンによっては何度か時間を空けて打つ必要もあります。留学などになると中学校から取り入れているところもあるので、ワクチンを子どもに打っていない保護者の方に気を付けていただきたいのが、
- ワクチンを接種していない子どもが海外に留学する際は、国によってワクチン接種の必要性がかなり厳しく求められることがある
- ワクチンを打つなら早めの行動が必要(打ち始めの時期や、打つワクチンは複数回打たないといけないのかを確認する)
- 打つワクチンが自費になるのであれば、病院によって値段が設定されているので、安く済ませたいのであれば何か所か病院をあたること
というところです。
ワクチンを勧めない医療従事者の中には、自分や自分の子どもは予防接種を打っていたり、ワクチン接種のバイトに行っている医療従事者はいる
医療従事者であっても、稀にワクチンを勧めない方は居ます。本当に信念を貫いてワクチンを勧めない方もいれば、残念ながらお金儲けでしている方もいらっしゃいます。仕事でノーワクチンを推奨していても、実際にプライベートでは自分や自分の子どもは接種しているという方もいます。また、ノーワクチンを推奨しておきながら、ワクチン接種のバイトで稼いでいる医療従事者もいます。ワクチン接種のバイトをどんな思いで仕事しているのか…、もし不安な患者さんがいたら患者さんにどう説明しているんだろうか…とちょっと疑念を抱きます。
ワクチンを勧めない方々の背後に注意してほしい
保護者がワクチン接種に疑念を抱き始めたとき、恐らくワクチン接種に対して否定的な意見を持つ、どなたかの存在がいらっしゃると思います。ワクチンを勧めない方々の中には、保護者からお金儲けをしようと企んでいる人がいたり、保護者が思ってもいないような宗教に入信するように仕向けてくる方もいます(※全員がそうというわけではないです)。まったく効果のないものを販売したり、効果のない民間療法を受けさせたり、上手に入信させようと企む人もいます。「そんなものには引っかからない、私は大丈夫」と思っていても、育児をしている保護者は基本的にいろいろ悩みながら過ごしているので、その状況をうまく利用して近づいてきます。
ワクチン接種をしないだけなら未だしも、お金が絡んでくると家庭が崩壊します。子どもに使うお金が、いつの間にかそのお金儲けをする方々へ流れていきます。ワクチンを接種しないと選んだ保護者の方々は、いろいろ悩みながら、子どものことを考えてその選択をしているので、子どもを大事に思う気持ちをうまく利用してお金儲けをしようとする人に、子どものために使う予定だったお金が流れていき、家庭が崩壊していくのは見ていて辛いです。なので、お金だけは「子どもに使う」としっかり認識をして、金銭管理をするようにしてください。
流行していなかった病気が、最近流行している
七五三の由来って知っていますか?昔は不衛生でよく病気が流行り、不衛生で医療がまだ未熟な時代で、子どもの死亡率が高かったため、七歳までの子は神の子と扱われていました。七歳・五歳・三歳の節目で無事に成長しているのをお祝いをしていたのが、七五三という行事です。時代とともに、衛生面が良くなり、医療の発展とともに、子どもの死亡率も低下してきました。日本ではあまり見られなくなった病気もあります。それが最近になって、麻疹や百日咳など、今まで流行していなかった病気が流行しています。ワクチンを打っていないと、それらの病気に罹りやすく、重症化しやすい可能性が高くなります。そこで気を付けるポイントが、
- 国内でワクチンを打っていない病気が流行している地域を把握して、自分が住んでいる地域ではどれくらい流行しているのか把握しておく
- ワクチンを打っていない病気が流行している外国の地域にはできるだけ渡航しない
- ワクチンを打っていないことで、その病気に罹りやすいという認識をしておく
ということです。海外へのアクセスがしやすくなった今、日本とは違う状況の海外から病気が持ち込まれるというのはよくあることかなと思います。なのでどんな病気が今自分の近くで流行しているのかというのを把握するのは大切かと思います。よく子どもが発熱すると保育園・幼稚園で何か流行っている?と医師から聞かれますよね。流行している情報をキャッチしていると、病気を発見するスピードも速くなるかと思うので、是非その情報はなるべく把握しておいた方がいいと思います。
ちなみにここらへんに関しては、ワクチンを打っている人にも重要なポイントかと思います。「ワクチンを打っているからその病気に罹らない」という認識をされる方も多いかと思います。よく「インフルエンザのワクチンを打ったのに、罹ったから意味なかった。来年はワクチンを打つの、やめておこうかな。」というお話を聞きますが、ワクチンの主な役割は「重症化を防ぐ」というところなので、ワクチンを打った=その病気に罹らないというわけではないです。「インフルに罹ったけど、インフルエンザ脳症(後遺症が残ったり命に関わる)にならなくて良かったね」というレベルの話です。わが子も水ぼうそうのワクチンを打ちましたが、水ぼうそうには罹りました。ただ、よくネットで「水ぼうそう」で検索して出てくるようなくらいの水疱の量ではなく、10個くらいで済みました。なのでその部分はみなさん認識を変えましょう。
子どもにワクチンを打っていても打っていなくても、子どもを思う気持ちは保護者として変わらない
「子どもにワクチンを打たないのは虐待」という言葉を時々聞きます。じゃぁワクチンを子どもに打たない親は子どもの事を全く考えていないのか?と考えると、そうではないですよね。子どもの事をたくさん考えて選んだ選択肢だと思います。
昔と違い、昔は治療法がなく防ぎようのない病気が流行していて、「いかに病気に罹らず子どもの死を防ぐか」と考えていたのが、今はその病気が重症化しないようにワクチンが作られ、その病気も激減し、医療の進歩と共に、昔に比べると平和な状況が続いています。私たちはその状況に慣れてしまっているので、ワクチンを打たないという選択肢ができるのだと思います。
今はいろいろな情報が流れてきており、その情報が正しいのか、そうでないのかを判別するのは、育児をしている保護者にはとても難しいです。わが子の成長が気になった時、自分を責める保護者は多いです。妊娠中や育児をしていると、気持ちは大きく揺れ、自分に寄り添ってくれる方の影響力は大きいです。その寄り添う方が、真っ当な考えの方ならいいのですが、育児をしている保護者の弱い部分に付け込んで狙う方々はいます。それは私自身も、保護者としても、医療従事者としても、気を付けないといけないと思っています。
本来ならば、医療の誤った情報は訂正されるべきものなのですが、その誤った情報がずっと流れてしまっているのは残念で仕方がありません。
もし、ワクチンを打っていなくても、今後打った方がいいのかな…と迷ったりすることがあれば、小児科の先生に相談してみてください。たいていの先生は「よくきたね!」と言って、不足分のワクチンの説明をしてくれると思います。
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