新型コロナウイルスワクチンに関する基本的な考え方

初めまして、あんなと一緒にブログの運営をしているあさくらと申します。普段は主に研究をしながら医師として働いています。現在は新型コロナウイルス感染症の広がりによって、特に妊娠中の方や子育て中の方にとっては不安な日々が続いていると思いますので、少しでもお役に立てる情報を提供できればと思い記事を書かせていただくことにしました。どうぞよろしくお願いいたします。

1年以上に渡る自粛生活で出口の見えない日々でしたが、最近ようやくワクチンも普及しだして今年中には何とかなりそうという希望が見えてきたのではないでしょうか?しかし、そうなると心配になるのが、子育て世代の人たち、特に妊娠中や授乳中の人が本当にワクチンを打っていいのかどうかということではないでしょうか?

家族や知り合い、SNS、ニュースなどいろいろなところで本当にいろいろな情報が飛び交っていると思います。そして、皆さんにも「早くワクチンを打ちたい」「何となく怖いからやめておこう」などといろいろな考えがあると思います。ここではその中からワクチンについてどのように考えていけばいいのかを医師の立場から書いていきます。

目次

新型コロナウイルスワクチンについて

現在日本で承認されているワクチンは以下の3種類です。

  • ファイザー社製「コミナティ筋注」
  • モデルナ社製「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」
  • アストラゼネカ社製「バキスゼブリア筋注」

このうちファイザー社製とモデルナ社製のワクチンは今話題となっているmRNAワクチンであり、新しい技術が使われているものとなっています。なお、アストラゼネカ社製のワクチンはベクターワクチンというものであり、こちらも新しい種類のワクチンになります。

新型コロナウイルスワクチンの有効性

では肝心の有効性はどの程度なのでしょうか?いずれもすでに第3相臨床試験まで終了していて、ファイザー社製・アストラゼネカ社製ワクチンはいずれも95%程度の発症予防効果が示されています。

それに対してアストラゼネカ社製のワクチンは70%程度の発症予防効果となっています。

一般的にインフルエンザワクチンの発症予防効果は50%程度とされているので、それを考えればアストラゼネカ社製ワクチンの70%の発症予防効果というのは非常に優秀な成績ということができます。mRNAは安定性が低くすぐに分解してしまうので、当初はファイザーやモデルナのmRNAワクチンは効果が不安視されていて、アストラゼネカ社製が最有力効果だったこともありました。しかし、アストラゼネカにとって不幸だったのはせっかく優秀なワクチンを開発したのに、mRNAワクチンが予想以上の驚異的な効果を示してしまい、発症予防効果が95%という異次元のワクチンが完成してしまったということです。発症予防効果が95%のワクチンができたというのは、1年前には考えられなかったことであり、ほとんど奇跡に近いことだと思っています。

戦争や災害などの困難に直面したときに技術革新が加速されて克服するものですが、このmRNAワクチンもコロナ禍の産物の一つといえるかもしれません。しかし、当たり前ですが技術革新というのは地道な一つ一つの成果の積み重ねで、あるとき華を開くものです。mRNAワクチンに関してもカタリン・カリコ博士が2005年に発表した論文がもとになっており、そこから地道な研究が続けられていたのです。一見急に出てきた未知の新技術のように見えますが、決して唐突に出てきた新技術ではなく15年以上もの地道な研究に裏付けられたものなのです。

新型コロナウイルスワクチンの安全性

もちろんどんなに効果のあるワクチンでも重篤な副作用があれば使えません。安全性についてはどうなのでしょうか?

アストラゼネカ社製のワクチンの安全性

これについてもアストラゼネカ社にとっては残念な結果になってしまいました。というのもファイザー社製・モデルナ社製のワクチンでは重篤な副作用は認められていないのに対して、アストラゼネカ社製のワクチンでは約25万分の1の確率(0.0004%)で特殊な血栓症を起こすことが報告されました。そもそも0.0004%というのは極めてまれであり、特に血栓症のリスクが高いと言われている若い女性を避ければ十分安全性の高いワクチンといえると思います。おそらくコロナ前の従来のワクチンの基準から言えば十分に優秀なワクチンだと言えるでしょう。mRNAワクチンが実用化されていなければこちらが「奇跡のワクチン」になっていたかもしれません。しかし実際は、「アストラゼネカ社製のワクチンはファイザー社製・モデルナ社製と比べて有効性は落ちる上に、稀ではあるが重篤な副作用がある」という結果になってしまったので、本命候補から一気に微妙な位置づけになってしまいました。如何せんライバルが強すぎたのです。

ファイザー・モデルナ社製のワクチンの安全性

では、実際に日本で使われているファイザー社製・モデルナ社製のワクチンの安全性はどうでしょうか?注射した部位の疼痛や頭痛・発熱などの症状はありますがすべて数日で収まる程度のものです

そのほか稀な副作用としては急性の重いアレルギー反応である「アナフィラキシー」があり、日本における最新の報告では100万件あたり13件(0.0013%)が報告されております。アナフィラキシー自体は新型コロナウイルスワクチンに特有なものではなく、すべての医薬品で起きる可能性のあるものです。その対応方法もしっかりと確立されているので、必要以上に神経質になる必要はないのではないかと思います。(万が一発生した際は迅速な対応が必要となるものであり、そのために接種後30分の待機が設けられているのです)

また、ワクチン接種後に失神するようなケースも報告されています。これは基本的に「血管迷走神経反射」による症状であり、痛みや過度な緊張などの様々なストレスにより自律神経のバランスが崩れて副交感神経が優位になったときに起きるものです。採血やそのほかの注射など様々な要因で起きることがあり、コロナワクチンの薬剤が注入されているかどうかは全く関係ありません。ただし、コロナワクチンの接種の際は皆さん様々な不安を抱えながら来られる方が多いので、「血管迷走神経反射」が起きやすい条件はそろっていることになります。そのため万が一過去に採血などで具合が悪くなったことがあるような方は、そのことを事前に申し出ておくとよいと思います。

繰り返しますが、現在日本で接種が行われているファイザー社製やモデルナ社製のワクチンでは重篤な副作用は認められていません。たまにアストラゼネカ社製のワクチンで報告されている血栓症をファイザー社製のワクチンによるものだと混乱されている方がいますが、ファイザー・モデルナでは血栓症の報告はありません。

ただし、他の新規に承認された薬剤と同様に、その有害事象については使用開始後も継続してモニタリングしていくことになっています。

新型コロナウイルスワクチンに関する疑問

残念ながら新型コロナウイルスワクチンに関しては様々な誤解やデマが出回っています。もちろん未知のウイルスとの闘いという今まで経験したことのない状況下で刻一刻と変わる状況に対処していくという困難の中で誤解が生じてしまうのが致し方のないことです。しかし、その中でも代表的なものを取り上げてどのように考えていけばいいのかを見ていきましょう。

ワクチンに入っているmRNAによって自分や子孫の遺伝情報が書き換えられてしまうことはありますか?

あり得ません。

体内における遺伝情報はDNAに格納されていて、それがmRNAに転写されて核外に出ることでタンパク質に翻訳されるので、「DNA → mRNA → タンパク質」という一方通行の流れになっています。mRNAワクチンはこのmRNAを投与するものなので、それが一方通行の流れに逆らってDNAに作用することはありません。

なお、一部のウイルスにはRNAからDNAの方向に向かわせるための「逆転写酵素」が組み込まれている場合もありますが、当然新型コロナウイルスワクチンのmRNA配列にはそのようなものは含まれていません。なお、ワクチンで用いられているmRNAの配列はPMDAの審査報告書ですべて公開されているので、それを確認することもできます。

投与されたmRNAが体内で無限にタンパク質を合成することはありますか?

あり得ません。

mRNAはタンパク質の合成が終わるとすぐに分解されてしまうという性質があります。そうでないと、体内でタンパク質を合成する際の「DNA → mRNA → タンパク質」という流れで、一度生成されたmRNAがいつまでも残ってしまうとタンパク質合成を止められなくなってしまうので当たり前といえば当たり前の性質ではあります。当然ワクチンのmRNAも同様で一度タンパク質合成が行われたらすぐに分解されることになります。

その分解されやすいという弱点を克服するために-80℃の極低温冷凍庫が必要になったりするわけです。「ワクチンの冷凍がうまくいかずに破棄されている」というニュースを毎日目にすることから考えても、それが体内の37℃程度の環境ですぐに分解されてしまうということは想像に難くないのではないでしょうか?

新型コロナウイルスワクチンはまだ治験中の薬剤なのですか?

治験のうち安全性・有効性の確認する段階は終了して、現在は「製造販売後臨床試験(市販後調査)」が行われています。

「ワクチンが治験中だから、今打ったら人体実験になる」というのもたまに見かけるデマです。市販後調査まで含めた広い意味での治験中であることには間違いないのですが、「市販後調査」というのは読んで字の如く市販後の調査です。新しい薬の開発のプロセスは有効性・安全性を確認した上で一般的に用いられてからも、一定期間はその後問題が発生しないかモニタリングされます。ワクチンは現在その段階だということです。ちなみにこの市販後調査はワクチンに限らず新規に承認されるすべての薬剤において実施されるものです。

まだ市販後調査が終わっていないから不安だというよりも、しっかりと副作用などがモニタリングされているから安心だと考えてもいいのではないでしょうか?

妊娠中・授乳中あるいは妊娠を計画中の人はワクチンは打たない方がいいのですか?

妊娠中・授乳中あるいは妊娠を計画中でもワクチン接種は可能です(ただし妊娠中は12週までは避けるように推奨されています)。

この話題に関しては別記事でも説明する予定ですが、妊娠後期に新型コロナウイルスに感染した場合に重症化リスクが高くなるのでワクチン接種のメリットが大きいと考えられます。可能であれば妊娠前に接種を受けるようにして、妊娠中は期間形成期である妊娠12週までは接種を避けることを避けるように推奨されています。詳細は以下の厚生労働省からの通知もご確認ください。

なお、ワクチン接種で不妊になるという話もありますが、明確にデマと否定されているのでご注意ください。

ワクチンの長期的な影響はまだわかっていないのですか?

原理的に長期的影響が出ることは考えづらいです。

確かにワクチン接種から10年・20年経過した人は存在しないので、その意味では長期的影響を直接証明することはできません。しかし、投与されたmRNAは体内ですぐに分解されてしまうものであるということを考えると、長期的影響は考えづらいです。

mRNAという「遺伝子」を外部から注入して自分の細胞に抗原を作らせるというmRNAワクチンの仕組みに不安を感じる方がいるかもしれませんが、外部から他の遺伝子が入るこむことは決して特別なことではありません。例えば風邪やインフルエンザに罹るということは、そのウイルスの遺伝子が体内が体内に入り込んで無秩序に増殖するということであり、外部から遺伝子が入り込むことには何ら変わりありません。mRNAワクチンでは、無秩序な増殖をさせるのではなく病原性のない抗原部分だけをコントロール下で生成するものです。一般的に風邪やインフルエンザに罹って長期的影響を心配することがないのと同様に、「外部から遺伝子が入り込む」ということに関しては長期的影響を特別心配する必要はないと思われます。

なお、新型コロナウイルス感染症に関しては重症化しなかった場合でも様々な後遺症が残ることが報告されているので、そのリスクも併せてワクチン接種の是非について考える必要があります。


その他さまざまな疑問や誤解などは以下のサイトで信頼できるソースと共に示されているので、一度ご覧になることをお勧めします。

新型コロナのワクチン、打った方が良い?~mRNAワクチンの効果と安全性、よくある誤解 | お薬Q&A

コロナ禍終息への出口

ワクチン普及後の世界

ここまでワクチンの有効性・安全性について説明してきました。現在までに疼痛や発熱などの副作用はありますが重篤な副作用はほぼなく、約95%の発症予防効果(変異株の場合は多少下がるかもしれませんが)が認められるということが分かってきています。このワクチンが普及するとどのような世界が待っているでしょうか?

例えばイスラエルではすでに多くの国民がファイザー社製のワクチンを接種しており、現在ではコロナの行動制限もほぼ解除しているにもかかわらずコロナの新規感染者数が毎日数人程度というのが続いています。これがワクチン接種が進んだ国の現実です。

ワクチンに頼らないコロナ禍の出口戦略

一方で、ワクチンに頼らずにコロナ禍を収束する方法があるのでしょうか?残念ながらその方法を知りません。コロナの治療薬の有効性を主張する方も一部にはいますが、現在のところ特効薬といえるような治療薬はありません。また、いかに完璧な水際対策をしていたも結局は時間稼ぎに過ぎず、台湾のようにいつかはほころびが出てしまうでしょう。

あるいはコロナは風邪だと主張して有効な対策を打ち出さない場合はどうなるでしょうか?その場合もいつかは集団免疫によってコロナが収束するのかもしれませんが、以下のコロナ感染者数とワクチン接種回数のグラフを見るとそのスピードはけた違いであることが分かります。この感染者数でも日本の医療はひっ迫して、コロナ以外の病気・怪我の人も十分な医療が受けられない状況が出てしまったのが現実です。コロナの自然感染で集団免疫の獲得を目指していたら、それが実現するのは何年も先になってしまう上に、多大な生命の犠牲を払うことになるでしょう。

PCR検査をひたすら増やせばコロナは収束するという人もいるかもしれません。しかし、コロナは感染後すぐの無症候期間でもウイルスをまき散らすので、症状が出てからPCR検査をしても感染の拡大のためには手遅れです。そうなると「全国民が毎日PCR」のような態勢を整える必要があるのかもしれませんが、莫大な費用と労力が必要なのは明らかであまり現実的な選択肢とは言えません。


もちろん、まだ有効なワクチンがまだ存在していなかったら、検査の拡充や自然感染での集団免疫の獲得などの戦略をとらざるを得なかったのかもしれません。しかし、1年前には想像もできなかったような有効なワクチンが開発された今となっては、ワクチン接種による集団免疫の獲得以外の選択をとるのは現実的ではありません。そもそもワクチン接種でコロナを克服している国も実際に出てきていることからも、「ワクチン接種による集団免疫の獲得」は机上の空論ではなく、すでに証明済みの有効な方法となっています。効果についてすでに証明済みの現実的な選択肢と机上の空論とを比較してどちらを選ぶべきかは明らかでしょう。

日本における最新のワクチン接種状況

日本における最新のワクチン接種状況については以下をご覧ください。

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